クロアチア東部、ハンガリー、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビアと国境を接しているエリアをスラヴォニア地方と呼びます。
北のドナウ川がハンガリー国境、南のサヴァ川がボスニア・ヘルツェゴビナ国境になっていて、ドナウ川中域に広がるカルパチア盆地に内包されるパンノニア平原(Panonska nizina)に含まれるため、地形はなだらかで、内陸だけに冬の冷え込みは厳しいものの年間を通じると降水量も少なく穏やかな気候です。
この地方もクロアチア全体と同じく古代から近代にかけてさまざまな列強による支配の歴史がありますが、イストラやダルマチアと異なるのはヴェネツィア共和国の影響が無く、地理的に近いオーストリアやハンガリーの影響を大きく受けていることです。
その影響は現代になっても、町の建物や料理、風習などに残されていて、ザグレブ以西・以南のクロアチアとは違う顔のクロアチアを見つけることができます。
また、この地方は1991年〜1995年の間のクロアチア紛争(ユーゴスラビア内戦)の激戦地となり、特にセルビア国境に接するヴコヴァル包囲戦など悲惨な戦闘がわずか30年前に行われていた、という歴史もこの地を訪れるのであれば忘れてはならないもの。
クロアチア東部・スラヴォニア地方の主な見どころ
ダルマチアやイストラに比べると観光的にはどうしても影の薄いスラヴォニア地方ですが、バルカン半島に平和が戻った今こそ、激戦地だったこの地方を訪ねて生々しい傷跡を目の当たりにすることで平和について考える、ということも大切だと考えます。
また、西部や南部とは歴史的な影響が異なるため、それは料理にも表れています。
チェヴァピなどの全国で食べられるものを除くと、アドリア海沿岸では魚介類やトマト、チーズを多用するイタリアの影響を受けた料理が多いですが、東部はオーストリアやハンガリーの影響を大きく受けたカツレツ(シュニッツェル)、グラーシュなどパプリカを使った料理などを楽しむことができます。
オスィエク
Osijek
オスィエクはザグレブから西へ約200キロ、ドナウ川に注ぐドラーヴァ川沿いにあるスラヴォニア最大の都市です。
かつてはムルサ(Mursa)と呼ばれた集落の集まりが起源で、ドナウ川へ通じる重要な河港でもあることから131年にローマ帝国皇帝ハドリアヌスによりコロニア(植民都市)の地位を与えられていました。
ローマ時代からこの地域は度々戦場になることが多く、さらに中世にはオスマン帝国による侵略を受け、その際にそれまでの町は完全に消滅したとされています。
現在のオスィエクの町はオスマン帝国時代以降に築かれたもので、1687年以降はハプスブルグ家領となった後に大きく発展し一時はクロアチア最大の都市にもなりました。
オスィエクの最大の見どころはドラーヴァ川沿いにある旧市街、ハプスブルグ家によって造られたトヴルジャ(Tvrđa=要塞)地区。
現在のオスィエクの中心は町の西側にあるアンテ・スタルチェヴィッチ広場(Trg Ante Starčevića)で、すぐ南にはザグレブ大聖堂に次ぐ高さの尖塔を持つ聖ペテロ・パウロ教会(Konkatedrala sv. Petra i Pavla)があります。
アンテ・スタルチェヴィッチ広場から東にのびるエウロプスカ大通り(Europska Avenija)を20分ほど歩くとトヴルジャ地区に至ります。
オスィエクの町やスラヴォニア地方全体の歴史を知るならスラヴォニア博物館(Muzej Slavonije)は必見。
トヴルジャ地区は1991年〜1995年の間の戦争時にも大きく損害を受けることはなく、ウィーンやブダペストを思わせる美しい建物が多く残っています。
オスィエクの観光は徒歩でも十分可能ですが、トラムが2路線走っていて、いずれもアンテ・スタルチェヴィッチ広場を通っています。
トラム1番(Linija 1)は東西を結ぶ線で、トヴルジャへ行く際に便利。
トラム2番(Linija 2)は南北を結ぶ線で、市街地部分では一方通行(反時計回り)の環状線になっていて、オスィエク駅・バスターミナルから乗るとアンテ・スタルチェヴィッチ広場を経由して再びジュパニスカ通りを通って南下していきます。
ちなみに、1998年のFIFAワールドカップ・フランス大会の日本vsクロアチア戦で得点し、同大会の得点王にもなったダヴォル・シュケルはこの町の出身。
オスィエクへのアクセス
オスィエクへはバスか鉄道を使って行くのは一般的。オスィエク空港もありますがフライトがほとんどないので時間の限られた旅行で使うには不向き。
バスで
オスィエクのバスターミナルは町の南にあるオスィエク駅の前にあるのでわかりやすく、アンテ・スタルチェヴィッチ広場まで歩いて約15分ほど。トラム2番の停留所がすぐ目の前にあるのでそれに乗ればアンテ・スタルチェヴィッチ広場まで楽に行くことができます。
各地からオスィエクへの所要時間は、ザグレブから約3.5〜4時間、リエカから約7時間、スプリトから約11時間、ウィーン(オーストリア)から約10時間、ベオグラード(セルビア)から約4時間。
鉄道で
クロアチア国鉄オスィエク駅はバスターミナルのすぐ隣にあり、年季の入った歴史的な駅舎の隣に近代的なガラス張りの跨線橋がある特徴的な駅。
リエカ〜ザグレブ〜オスィエクの東西ルートはアドリア海とドナウ川を繋ぐ重要な物流ルートということもあり、現在でもクロアチア国鉄の最重要幹線のひとつとなっています。
とはいえ、列車の本数がもともと少ないクロアチアなので、ザグレブ〜オスィエク間の列車は多くても1日3往復程度で、うち1便はリエカまで直通する列車です。
ザグレブ中央駅〜オスィエク間は約4時間30分〜5時間(ICとRがありICのほうが若干早め)。
ヴコヴァル
Vukovar
ヴコヴァルはオスィエクから南東に約30キロ、ドナウ川、そしてセルビアとの国境に接する小さな町。
かつてはオスマン帝国、ハプスブルグ家、ハンガリーなどの支配を受けながらも多民族が共存し、バロック調の建物が並ぶ美しい町でしたが、1991年〜1995年の間のクロアチア紛争で最激戦地となり、未だにその傷跡は深く残されています。
1991年8月25日から87年間に渡って町はユーゴスラビア人民軍とセルビア人勢力に包囲され、1000人以上の死者を出して11月18日にクロアチア側は降伏し町は陥落します。。
セルビア人勢力に町は占領され、クロアチア人住民の多くが捕らえられ強制収容所送りとなりました。
1991年11月20日、ヴコヴァル病院(Vukovarska bolnica)に収容されていた非セルビア人(=殆どがクロアチア人)の一般市民がトラックで連行。ヴコヴァルの町から10キロ南に離れたオヴチャラ(Ovčara)の養豚場で激しい暴行を受け、一部はかつて隣人だったセルビア人の口添えで解放されたものの、約260人がその場で射殺されブルドーザーで共同墓地に埋められるという悲劇が起こります。
惨劇の現場となったオヴチャラの農場には2006年に祈念施設(Spomen dom Ovčara)が整備され、犠牲者の持ち物や顔写真、銃弾なども展示されています。
また、ヴコヴァル病院には併設の博物館があり、占領され人々が連行されてしまった日の様子がそのまま残されています。
町の南側のドナウ川沿いには「ヴコヴァル給水塔 Vukovarski vodotoranj」があり、川向こうからの砲撃で穴だらけになった塔が痛々しく、また生々しい戦争の記憶を今に伝えている碑となっています。
街の中心部には今でも砲弾や銃弾の跡が残る建物が多くあり、戦争の記憶を留めるためという意味合いもありつつも、思うように復興が進んでいない、という現実があることも実感します。
ヴコヴァル市立博物館となっているエルツ邸(Gradski muzej Vukovar / Dvorac Eltz)は1751年に建てられたバロック建築の美しい屋敷で、2011年11月に修復され20年ぶりに再公開されるようになりました。
ヴコヴァルへのアクセス
ヴコヴァルへはバスで行くのが一般的ですが、オスィエクからは季節や日によってはかなり便が少なくなるので注意。
バスで
バスターミナルは町の北側で、町のほぼ南端にある給水塔までは約1.5キロ。
ヴコヴァルへの所要時間はザグレブから約5時間、オスィエクから約1時間、ヴィンコヴチから約30分。
ザグレブを早朝に出れば日帰りも可能ですが、帰りのバスの時間は要確認。
クロアチア東部・スラヴォニア地方のオススメホテル
クロアチアツアーズが厳選したクロアチア東部・スラヴォニア地方のホテルをご紹介します。
クロアチアツアーズではご案内するホテルに一定の基準を設け、どれだけ安くてもその基準を下回るホテルをご案内することはありません。
ただ泊まるだけ」とお考えの方もいらっしゃると思いますが、泊まるホテルは意外と印象に残るものです。
ヴァルディンゲル(オスィエク)
WALDINGER
オスィエクの中心にあたるアンテ・スタルチェヴィッチ広場のすぐ南側、ジュパニスカ通りにあるホテル。
クラシカルな雰囲気ですが小さなホテルだけに管理は行き届いている印象。
トラム(2番)の乗り場も近いのでバスターミナルや駅からの移動も便利。
Županijska ul. 8, 31000 Osijek
Wi-Fi| レストラン| バー| ジム
ラヴ(ヴコヴァル)
LAV
ヴコヴァル市街地の北側、バスターミナルから徒歩5分圏内の便利なホテルです。
ヴコヴァルはホテルが極端に少なく、B&Bやアパルトマンは多いものの、市街地にあるホテルはこの1軒のみ。
Ul. Josipa Jurja Strossmayera 18, 32000 Vukovar
Wi-Fi| レストラン| バー| ジム