ダルマチア地方(Dalmacija)はクロアチア西部、アドリア海沿岸の一帯をさします。
地図をみるとわかるように、非常に入り組んだ海岸線と無数の島々、そして背後にはディナル・アルプス山脈が迫る、南北に細長いエリアです。
ダルマチアは歴史上共和政ローマ(ローマ帝国)、ハンガリー、ヴェネツィア共和国、ハプスブルグ家など、列強による支配の繰り返しといっても過言ではない歴史を歩んできた地域でもあります。
とはいえ大規模な破壊が起きなかったこともあって、ザダルやシベニク、トロギールなど美しい古都がたくさん残っています。また、その歴史から数々の文化が入り混じった独特なものを形成していることが文化や建築をみるとわかります。
ザダル&ダルマチア地方の主な見どころ
ダルマチア地方は南北に長く、厳密にはドブロブニクまでも含みますが、ここではその北部〜中部にあたるザダル郡、シベニク=クニン郡、スプリト=ダルマチア郡に含まれる場所をご紹介します。
ザダル、シベニク、トロギールは大きくみればザグレブ〜プリトヴィツェ〜スプリトを繋ぐルート上にあるため、訪れるのは比較的簡単。ニンやパグなどの北部を訪れる場合はザダルで少し長めに滞在して数日にわけて各地を日帰りするのがオススメ。
トロギールやクルカ国立公園はスプリトからの日帰り圏内で、移動もそちらのほうが便利です。
ザダル
Zadar
ザダルはアドリア海に面した、ダルマチア地方北部の中心都市。
その歴史は古く、紀元前9世紀頃にイリュリア人によって築かれた集落がその起源と言われています。ダルマチア地方の他の都市と同じく紀元前3〜1世紀ごろにかけてローマ帝国の支配を受け、現在でもその遺跡(フォルムや柱)がザダル旧市街に残されています。
中世の地中海の覇権争いに巻き込まれ、その地理的条件からヴェネツィア共和国によるコンスタンティノープル(現イスタンブール)攻略の拠点とすべく、同じキリスト教国にも関わらず攻撃、占領を受けています。
海に突き出た半島がそのままザダル旧市街となっていて、前述のフォルムをはじめ、聖ドナト教会(Crkva Sv. Donata)、聖マリア教会・修道院(Samostan benediktinki sv. Marije)、聖ストシャ大聖堂(Sveta Stošija)など美しい教会・聖堂が多数内部に残っています。
また、ザダルはクロアチアいちの夕日の名所として知られていて、半島の先端にある海沿いの公園には毎日夕方になると多くの人が集まってきます。この公園には「シーオルガン(Morske Orgulje)」が埋め込まれていて、海風に反応してメロディーを奏でる仕組みになっています。
ザダルへのアクセス
ザダルへはバスか船で入るのが一般的です。
鉄道駅もあるにはありますが、ほぼ機能していないため現実的な移動手段としては使えません。
バスで
バスターミナルは新市街にあり、旧市街の南門(Kopnena Vrata)まで歩いて20分ほど。市バスはすべてバスターミナル発着で、2番・4番・9番の3系統が旧市街の外周をぐるっと周ります。
ザダルへの所要時間はザグレブから約3時間〜4時間、プリトヴィツェ湖群国立公園から約2時間、スプリトから2.5時間〜3.5時間。
フェリー・高速船で
ザダル港は旧市街のある半島の東岸(Liburnska obala)にあり、そのまま旧市街の中心に歩いて入れるのである意味バスよりもアクセスは良いです。
発着する船はほとんどが周辺の島との生活路線ですが、スプリト、シベニク、プーラ、リエカなどの国内の長距離路線や、イタリアのアンコーナ、ペーザロを結ぶ夜行フェリーも運行されています。ただ、殆どの路線が夏季限定なので注意。
所要時間はスプリトから約3.5時間、シベニクから約2時間、プーラから約6時間、リエカから約4時間。
ニン
Nin
ニンはザダルから約15キロほど北へ行った小さな町で、潟(ラグーン)の中に浮かぶ島がそのまま町になっています。
本土と島は16世紀に造られた2本の橋で結ばれていて、その西側には広大な塩田が広がっています。
ニンはシベニクとならぶダルマチアで最も古い町のひとつで、クロアチア人が入植しはじめた7世紀以降目覚ましい発展を遂げ、8世紀終わりから9世紀にかけてクロアチア初の王国が建国されたこともあり、クロアチア人にとってこの地は歴史上非常に大切な場所。
歴史的な町そのものは16世紀〜17世紀に完全に破壊されてしまい、現在ではその痕跡を残すにとどまっています。
旧市街の中心にある「世界一小さな聖堂」と言われる聖十字教会(Crkva svetog Križa)は必見。周辺のビーチではミネラルを豊富に含む潟の泥を身体中に塗るマッドスパも体験できます。
また、ニンの塩はスプリトやドブロブニクのお土産屋でもよく見かけますが、せっかくニンへ行ったのならここで購入したいところ。ローマ時代から伝わる製法で作られる天然塩は旨味が凝縮されています。
ニンへのアクセス
ニンは主要なバス路線からは外れているので、基本的にはザダルからバスで訪れるのが自力で行く唯一の方法です。
季節にもよりますが、夏季の観光シーズンには1日10便ほど運行されますが、シーズンオフはかなり少なくなります。所要約30分。
バス停は旧市街へ渡る橋の200メートル手前、ザダルスカ通り(Zadarska ul.)とヴコヴァルスカ通り(Vukovarska ul.)の交差点にあります。バスターミナルがないため、荷物預かりなどはないので注意。
シベニク
Šibenik
シベニクはザダルからアドリア海沿いを約70キロ南、クルカ川の河口にある小さな町。
ダルマチア地方のほぼ中央に位置するこの町はアドリア海に面したクロアチアの町としては最古の町として知られています。
イリュリア人やローマ人が築いたスプリトやザダルとは異なり、シベニクは町の興りからクロアチア人が築いたとされています。
町のシンボル、聖ヤコブ大聖堂(Katedrala sv. Jakova)はヴェネツィア共和国支配下の1431年から105年の歳月をかけて完成したもので、外壁と洗礼堂に彫られた71人の頭部の彫刻が印象的。建築にはブラチ島から運ばれた石灰岩と大理石のみが使用されていて、レンガや木を使わずに造られた石造建築としては世界最大のもの。その歴史的価値、及び建築技術などが評価され、2000年に「シベニクの聖ヤコブ大聖堂」としてユネスコ世界遺産に登録されています。
町の北側にある聖ミカエル要塞(Tvrđava sv. Mihovila)からはシベニクの町と海を一望することができるので、こちらもオススメスポット。
シベニクへのアクセス
バスで
バスターミナルは旧市街の南の外れにあり、聖ヤコブ大聖堂まで歩いて約15分ほど。
シベニクへの所要時間はザグレブから約4.5時間〜5時間、プリトヴィツェ湖群国立公園から約4.5時間、ザダルから約1.5時間、スプリトから1.5時間。
フェリー・高速船で
シベニク港はバスターミナルからそのまま海へまっすぐ向かった大きな平面駐車場の奥にあります。殆どが西の沖にあるズラリン島やジュリエ島へ行くローカル路線ですが、夏季にはザダル・スプリトへの船の運行があります。
所要時間はザダルから約2時間、スプリトから約1.5時間で、どちらもバスとほぼ所要時間が変わらないので、運行が少ないのはネックですが時間さえあれば船で移動するのもオススメ。
トロギール
Trogir
トロギールはスプリトの西、本土とチオヴォ島の間の海峡にある小さな島に乗っかったような古都。
スプリトにディオクレティアヌス宮殿が築かれる600年前には既にこの地に町が築かれはじめていたとされていますが、それ以降2300年に渡って常に支配者がいる(時代によって変わる)、いわゆる植民都市として発展してきた歴史があります。
1123年に一旦町は完全に破壊されますが、13世紀までには完全に復興し、城壁と島という地理的な利点もあり、現在に至っても中世の頃のままの姿を留めています。
中心にある聖ロヴロ教会(Crkva sv. Lovre)は13世紀から完成に400年を要し、ロマネスク様式とゴシック様式が混在したクロアチアにおける教会の傑作と呼ばれるもの。鐘楼は上に登ることもできます。
島の西の端にあるカメルレンゴ城(Kaštel Kamerlengo)はヴェネツィア共和国統治下で造られた要塞で、トロギールの町と島、スプリトまで見渡すことができます。
トロギールは町全体がその歴史的・芸術的価値と保存状態の良さから、2000年に「古都トロギル」としてユネスコ世界遺産に登録されています。
トロギールへのアクセス
トロギールへはスプリトから日帰りするのが楽ですが、ザダルやシベニク、プリトヴィツェ方面〜スプリト間の行き来する途中に立ち寄ることも可能。
バスで
バスターミナルは町の北東端の本土側にあり、目の前の橋を歩いて渡ればすぐ旧市街。
ザダルやシベニク方面から来る場合は気にすることはありませんが、トロギール〜スプリト間のバス移動はスプリト側のバスターミナルが便によって異なるので注意が必要。
幹線上にあるので便数は非常に多い(1時間に2〜3本程度)ですが、スプリト港の前のバスターミナルへは長距離バスしか行かず、近距離バス(スプリト市バス)は港やディオクレティアヌス宮殿まで1キロほど手前のバスターミナル発着になります。
スプリトから長距離バス利用で約30分、近距離バス(スプリト市バス・37番)で約50分〜1時間。
パグ
Pag
かわいらしい響きが印象的なパグは同名の島(パグ島)の中心の町で、アドリア海から吹き付ける潮風の影響で荒涼した大地が背後に広がっています。
ニンに初めて築かれたクロアチア人王国の一部(当初はビザンチン支配下)となり発展しますが、15世紀にオスマン帝国が勢力を伸ばしその脅威に対抗するため防御に都合の良い現在の場所に町ごと移転してきたとされています。(当初は今の町よりも3キロ南)
19世紀末には5000人近くいた人口も徐々に減少し、ただでさえ荒れた土地にわずかながら残されていたワイン畑が疫病で全滅してしまったこともあり、パグ島から多くの住民が海外移民となってアメリカやオーストラリアに渡りました。
1991年からのクロアチア紛争では一時本土側がユーゴスラビア人民軍の勢力下に入ってしまい、その時期は南北クロアチアを結ぶ唯一のルートがこのパグ島でした。
現在では羊のチーズとレース編みが地元産業として細々と行われる田舎町ですが、その素朴さに惹かれ訪れる旅人は少なくありません。
パグへのアクセス
パグ島は南(ニン、ザダル側)は本土と橋で繋がっているので、バスで直接アクセスできます。
バスで
基本的にはザダルからのアクセスとなります。
夏季には最大で1日10便程度あり、所要時間も1時間程度なので十分日帰り可能。
バス停は町の北の外れの海沿い、レストラン(Konoba Barcarola)の前にあります。
クルカ国立公園
Nacionalni park Krka
シベニクが河口となるクルカ川の上流、約109平方キロメートルにも及ぶ広大な国立公園で、プリトヴィツェ湖群国立公園に勝るとも劣らない大自然を楽しむことができます。
立ち入ることができるエリアが南北に広大なため、歩きはもちろん、船を使った園内ツアーで周るのもオススメ。
「ヨーロッパで最も美しい」とも称されるスクラディンスキ滝(Skradinski buk)は圧巻。長さ400メートル・幅100メートルの17段(高低差は約50m)にもなる大滝で、夏季にはその滝壺で泳ぐこともできます(ちなみにプリトヴィツェは遊泳禁止。)。
滝の周辺は橋の上や森の中などさまざまな角度から眺められるようになっていて、カフェもあるのでいつまででも眺めていられるほど。また、トレイルコースも整備されているので、地図を見ながら森の中を散策するのもオススメ。
スクラディンスキ滝から7キロほど上流へいくと川の流れが嘘のように穏やかな真っ青な水をたたえる湖となり、その真ん中にポツンと島が浮かんでいます。この島はヴィソヴァツ島(Otok Visovac)といい、1445年に建てられたフランシスコ会修道院があります。島に渡ると外界と遮断された、湖水の波音と鳥の声だけが聞こえる穏やかな時間を過ごすことができます。(ちなみに、売店でビールも売っています。)
クルカ国立公園の入り口はスクラディン(Skradin)とロゾヴァツ(Lozovac)の2ヶ所。
スクラディンが最も河口(シベニク、スプリト寄り)で、町中の湖沿いに船着き場があり、そこから船で直接スクラディンスキ滝近くまで行くことができます。
ロゾヴァツはスクラディンスキ滝には近いですが、入り口から滝までは高低差があるので園内バスで滝まで行くのが一般的。バスを降りて森の中を抜けていくと流れ落ちていく川の様子をたどりながらスクラディンスキ滝まで行くことができます。
なので、スクラディンスキ滝をいきなり見たい人、もしくは歩きは避けたい場合はスクラディンから、散策も楽しみたい人はロゾヴァツから行くのがオススメ。
ヴィソヴァツ島へはスクラディンスキ滝の近くから船で行く周遊ツアー(所要2時間)で。さらにその上流にあるロシュキ滝(Roški slap)まで行く4時間のツアーもあり。
ヴィソヴァツ島だけに行く場合、レンタカーで行く時のみ使える裏技ですが、Google Mapsで座標「43.859903, 15.968370」を入力するとヴィソヴァツ島が見える桟橋に着き、そこの桟橋からヴィソヴァツへ小舟で渡ることができます。
クルカ国立公園へのアクセス
クルカ国立公園へはスプリトかシベニクからバスで向かうのは一般的。レンタカーがあればより便利で、スクラディン・ロゾヴァツいずれも大きな駐車場があります。
バスでスクラディンへ
スプリト・バスターミナルからスクラディンまで夏季には1日最大10便ほどあり、所要時間は約1.5時間。
シベニクからはやや本数が少なく1日最大5便ほどで、約30分。
スクラディンのバス停からはそのまま湖に通じる道をまっすぐ進むと船着き場があります。船着き場の手前の右側に公園の入場券売り場があります。
バスでロゾヴァツへ
ロゾヴァツへ行く場合はスプリトからはバスがなく、シベニクでの乗換が必要なのでやや面倒(そこまでしてロゾヴァツから入る意味はあまり無し)です。
シベニクからは1日最大5便ほど、所要時間は約20分。
コルナティ国立公園
Nacionalni park Kornati
Nacionalni park Kornati
ザダルの南方のアドリア海に全長約35キロに渡って点在する大小109の島とその海域全体が国立公園となっているのがコルナティです。
自力で行くには相当ハードルが高いので本土側の最寄りの町ムルテル(Murter)やザダルなどから日帰りツアーで周遊するのが一般的。
殆どの島が石灰岩で出来ていて、緑が少ない荒涼とした荒々しい島が目立つのが特徴。ただ、南北に長いこともあって場所によって景観が変わっていくのも面白いところ。
国立公園内には含まれませんが、本土に近いガレシュニャク島(Otok Galešnjak)はきれいなハートの形をした島として有名。島は全体が私有地(無人島)なので基本的には上陸は不可で、ヘリツアーで遊覧しない限りハートを見ることはできません。
ザダル・シベニクのオススメホテル
クロアチアツアーズが厳選したザダルとシベニクのホテルをご紹介します。
クロアチアツアーズではご案内するホテルに一定の基準を設け、どれだけ安くてもその基準を下回るホテルをご案内することはありません。
ただ泊まるだけ」とお考えの方もいらっしゃると思いますが、泊まるホテルは意外と印象に残るものです。
パラッツォ・ヴェネツィア(ザダル)
PALAZZO VENEZIA
ザダル旧市街の中心部、「海の門 Vrata Sv Krševana」のすぐ内側にあるホテル。
海の門の前は港になっていて、スプリトやイタリアへの船も発着しています。
ホテルは小さいながらもヴェネツィア共和国時代の宮殿をイメージした内装が凝っています。
専用車利用の場合、旧市街内部に車は入れませんがここなら門からすぐなので便利。
Poljana Pape Aleksandra III 4, 23000 Zadar
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Wi-Fi
コロヴァーレ(ザダル)
KOLOVARE
バスターミナルから西(海の方向)へ徒歩7分ほどのビーチリゾートホテル。
旧市街中心部や夕日の海岸へは徒歩15分ほどで、ホテル前にもビーチがあり、朝夕の散策もおすすめ。
ホテルと旧市街の間には雰囲気の良いレストランなども多く、治安も良いので夜の街歩きも問題なし。
Ul. Bože Peričića 14, 23000 Zadar
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Wi-Fi| レストラン(夏季のみ)| バー| 駐車場あり| プール
ライフ・パレス(シベニク)
LIFE PALACE
シベニクの旧市街の中、聖ヤコブ大聖堂から徒歩すぐのホテル。
15世紀、ヴェネツィア共和国支配下時代に建てられた宮殿がベースになっています。
周辺は狭い路地が入り組み、中世の頃から変わらない町並みの中で宿泊することができます。
Ul. kralja Tomislava 12, 22000 Šibenik
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Wi-Fi| レストラン| バー| 駐車場あり(徒歩5分)| スパ